生成AIと特許業界

私がこの特許業界に入ったのは、いまから42年前。

小さい卸業会社から全く畑違いのこの業界に飛び込んだ当時、日本はバブル時代でした。

この僅か40数年の一瞬の間に、長期の景気停滞もさることながら、国内外の法制度、諸外国の知財戦略、国内顧客の知財戦略などを含め、この業界も大きく様変わりしました。

「紙と鉛筆があれば食っていける」と豪語していた修行時代の講師の言葉は、いまや幻。

この様変わりは、特許(知財)業界の一角を占める特許事務所とて例外ではありません。

私が勤め始めときは、まだ和文タイピングの業務が残っており、英文タイピングも含め、タイピストの存在感が強い時代でした。

出願するにはタイプ時間が必要なので、計画的な作業が必須であるものの、月末はいつも深夜12時直前にタクシーで新宿の郵便局に急行。そして、窓口に並ぶのが常でした。

前に並んでいる人が居れば一安心で、12時を過ぎてもその日の日付印を押してくれたものです。

一段落した所長はその後、歌舞伎町で寿司をご馳走してくれました。その後はどうやって帰宅したのか、いまは記憶がありません。紙出願時代の人情味のある話です。

その後、「ワープロ+ドットプリンタ」が一世を風靡したものの、直ぐにパソコンに取って変わられました。

技術者が直接パソコンを使って明細書を作成するので、タイピストも殆ど居なくなりました。

技術者がパソコンを使うと、文章のコピペ部分が増えて明細書枚数が増えます。これを嫌ってか、最近は企業の料金リストから頁割増の項目が少なくなりつつあるようです。

企業が事務所に求める業務内容・質や料金体系も大きく変ってきているということですね。

昨今は生成AIが登場し、明細書のかなりのものを作成してくれる、という話もあります。

歳をとってくると、明細書作成はかなりハードな仕事に感じるようになってきました。ただ座ってワードを打っていれば済むというものでなく、脳の瞬発力が要求されるタフな仕事でもあるのです。

特許技術者(補助者)として、生成AIはその助けになるのか、それとも仕事を奪われるのか、そんな時代が直ぐ先にあるような気がしています。