「10分」の教訓

いまから13年ほど前、大阪のベンチャー企業から「鉛フリーの低温はんだに関する米国特許(US,933,xxx B2)を無効にできないか」と相談がありました。

この米国特許は、欧州の小規模ながらX線センサの開発専門メーカが米国で保有していた権利であり、どうしても米国での権利が邪魔になる、との理由でした。

この米国特許の履歴を調査したところ、米国審査官からの1回の拒絶理由を克服して、すんなり権利化されていました。

そこで、まずは無効化のため調査を行うべく、日本の特許庁のDB(現在の「J-PlatPat」)に「はんだ材料」と「温度」の条件を入力したところ、何と驚くなかれ、殆どドンピシャで拒絶できそうな公知例が2件、しかもたった10分の作業で簡単にヒットしたのです。

これらの公知例はもちろん英語版もあったので、米国審査が甘い、と思わざるを得ませんでした。(現在は厳しいようですが…)

ただ、それは組合せで無効理由が成立しそうなものだったため、新宿にある国内特許事務所に在籍していた米国特許弁護士に相談して鑑定をしてもらったところ、これはほぼ完璧な(perfect)無効文献であると褒めていただきました。

この公知例2件を以って無効審判を米国で行った結果、相手方は再審を請求して審査を継続し粘りましたが、結局3年後に無効になったのです。

この調査業務を通じて感じたことは、

「殆どの審査結果は信頼してよいが、ときとしてそうでないことがある。こんなに簡単に許可になってよいのかと少しでも感じたら、自分で調査をしてみる」ということです。

このケースのようにたった10分で拒絶根拠となる公知例が見つかるような事態は回避すべく、特許事務所へ相談するべきなのです。

特に欧米の企業は審査官の許可査定を疑い、許可理由に納得いかない場合は更に審査を続ける傾向にあります。(もちろん、出願の目的が何であるのかにもよりますが)

「2023 特許・情報フェア&コンファレンス」@東京ビッグサイト レポ

先月13日~15日まで「2023 特許・情報フェア&コンファレンス」が東京ビッグサイトで開催されていたので、久しぶりに参加してきました。

近年、さまざまなコンファレンスや展示会が開催されていますが、これらは自社の技術開発や他社の情報を収集するための手段として格好の場です。

この「特許・情報フェア&コンファレンス」は、各企業の知財、特許調査関係、特許事務所、翻訳関係の人が集まる、技術者から見れば少しマニアックに見えるイベントかもしれません。機械やサンプルが並んでいる訳ではないので。

展示ブースには公的な組織や金融機関からの参加もありましたが、外国からの参加は中国の特許事務所が幾つかあった程度で以外と少なかった印象です。

その中に一つ、インドの事務所からの参加があったので、名刺交換をさせてもらいました。

製造拠点がシフトするにつれて、さまざまな業界においてインドへの特許出願も今後増えていくことが予想されますが、インドの特許制度は、欧米などのそれとは少し違う面があるので要注意です。

また、例年通り大手メーカー企業の調査ツールやサービスなどがあるなかで、それ以上に今年はAI(生成AI)による特許評価、強いては知的財産の価値を企業全体の資産評価の一要素として扱うものが目立ちました。

他には「弁理士が行う特許翻訳」と銘打って展示されているブースもありました。

その弁理士先生ともお話をしてきましたが、皆さん、この競争時代に差別化には苦心されているようでした。

生成AIと特許業界

私がこの特許業界に入ったのは、いまから42年前。

小さい卸業会社から全く畑違いのこの業界に飛び込んだ当時、日本はバブル時代でした。

この僅か40数年の一瞬の間に、長期の景気停滞もさることながら、国内外の法制度、諸外国の知財戦略、国内顧客の知財戦略などを含め、この業界も大きく様変わりしました。

「紙と鉛筆があれば食っていける」と豪語していた修行時代の講師の言葉は、いまや幻。

この様変わりは、特許(知財)業界の一角を占める特許事務所とて例外ではありません。

私が勤め始めときは、まだ和文タイピングの業務が残っており、英文タイピングも含め、タイピストの存在感が強い時代でした。

出願するにはタイプ時間が必要なので、計画的な作業が必須であるものの、月末はいつも深夜12時直前にタクシーで新宿の郵便局に急行。そして、窓口に並ぶのが常でした。

前に並んでいる人が居れば一安心で、12時を過ぎてもその日の日付印を押してくれたものです。

一段落した所長はその後、歌舞伎町で寿司をご馳走してくれました。その後はどうやって帰宅したのか、いまは記憶がありません。紙出願時代の人情味のある話です。

その後、「ワープロ+ドットプリンタ」が一世を風靡したものの、直ぐにパソコンに取って変わられました。

技術者が直接パソコンを使って明細書を作成するので、タイピストも殆ど居なくなりました。

技術者がパソコンを使うと、文章のコピペ部分が増えて明細書枚数が増えます。これを嫌ってか、最近は企業の料金リストから頁割増の項目が少なくなりつつあるようです。

企業が事務所に求める業務内容・質や料金体系も大きく変ってきているということですね。

昨今は生成AIが登場し、明細書のかなりのものを作成してくれる、という話もあります。

歳をとってくると、明細書作成はかなりハードな仕事に感じるようになってきました。ただ座ってワードを打っていれば済むというものでなく、脳の瞬発力が要求されるタフな仕事でもあるのです。

特許技術者(補助者)として、生成AIはその助けになるのか、それとも仕事を奪われるのか、そんな時代が直ぐ先にあるような気がしています。

国内公報調査の注意点について 

10月に入りやっと暑さも落ち着いてきました。

報道によると、この夏の気温は過去最高だったということです。

ということは、私が18歳で上京してから、最も暑い東京の夏ということになります。

どうりで体力的に堪えた訳ですね…。

 

そんな中、最近改めて注意喚起が必要と思われる事象に遭遇しました。

日本の会社の米国特許出願に対して、米国審査官が米国で発行された特許公報(日本には出願していない)で拒絶してきたのです。内容はほぼ同じでした。

それに前後して、日本の会社の欧州特許出願に対して、欧州審査官が韓国で発行された特許公報(日本には出願していない)で拒絶してきました。これも殆どドンピシャの内容。

欧州審査官は、機械翻訳されたハングル語の韓国公報を引用したようです。

最近は機械翻訳が急速に普及し、特許庁同士(日、米、欧、中、韓)も審査に関して情報共有しています。

注意すべきは「特許公報はどの国で発行されたものであっても、他国で公知例として機能する」ということです。

どのように特許を活用するか、その戦略にも依りますが、特に積極的な権利行使を視野に入れている場合は国内公報だけを調べる調査では十分でないと思われます。

伴走型特許調査サービス『Pathelp』のご案内

この度、これまでの経験をもとにした伴走型特許調査サービスを「PatHelp」と銘打った中小・ベンチャー企業様向けの新サービスを始めました。

伴走型とはいっても、必ずしも政府や公的機関のような形式張ったものではありません。

私どもの経験に基づいて企業様の自社ブランド化に向けた新製品開発を、一過性ではなく、長期間にわたってサポートさせていただくものです。

企業様の日頃の業務の中で思いついた技術アイデアや改善、さらには営業担当が仕入れた他社情報などを元にした新規ネタを社内検討の段階からお客様の知財スタッフの一人として、半年から数年にわたって育て上げます。

特許のみならず、実用新案、意匠、商標などについても調査可能です。

特許調査をもとに打ち合わせを繰り返し、アイデアに磨きを掛け、新製品の開発設計、試作、製造に特許(知財)面からサポートさせていただきます。

必要に応じて特許事務所での特許出願も可能です。

さらに、出願後の措置も企業様の一スタッフとして特許事務所様との連携のもとで行います。

自治体にも拠りますが、特許調査にも補助金が適用される場合もあり、製品開発の補助金の一部を知財費用に充てる場合もあります。

また調査結果次第では出願までは不要な場合もあります。

まずは、調査して競合他社の動向を俯瞰的に探っておくことをお勧めしています。

ご興味がございましたらいつでもご相談ください。

四ツ谷駅周辺の再開発

オフィスのある四ツ谷では、JR四ツ谷駅を中心に周辺の再開発が大規模に進められています。

地盤整備の間は時間が掛かっていましたが、建物の建設に入ったら、あっという間に大きなビルが出来ていきます。

歩道沿いのフェンスには、何百枚もの「建設業許可票」がずらりと貼りだされています。

巨大なビルだから数が多いのは当然なのでしょうが、これだけの要素が齟齬をきたすことなく組み合わされて初めて、安全な日常ができあがっていくのだと改めて意識させられます。

2014年 気になるニュース

1)今年は「SMAP」ではなく「STAP」の当たり年でしたが、理研の検証実験の最終報告と、国際特許出願の各国審査の今後の動向が大変気になります。

2)今年のノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏は、今後も「怒り」を持って研究し続けるため、日亜化学との関係修復はしない方が良いのではと危惧します。

北海道へ

夏の北海道

毎年訪れる北海道ですが、今年は特に晴天に恵まれ、

空の青さに癒されてきました。

北海道1